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税務の勘所Vital Point of Tax

昨年4月から運用開始 地方税の裁決データベースに注目【後編】

2017/02/16

 後編では、最近公表された税務関係の事案を紹介する。相続放棄した不動産に固定資産税が課税されたのはおかしいとして、相続放棄した相続人が伊東市に対して不服申立てを行ったケース(平成28年10月25日)。

 裁決書によると、被相続人に債権のあった債権者が、債権保全のため債権者代位により被相続人名義の伊東市にある土地・建物を相続人A名義にする相続登記を行い、仮差押登記をした。この間にAは被相続人の債務がプラスの財産を上回るとみて家庭裁判所に相続放棄の手続きを行い受理された。

 この結果、債権者は仮差押登記を抹消したが、相続放棄した不動産の名義は相続登記により、まだAのままだった。そして、固定資産税等の賦課期日1月1日を経過し、その年の4月、相続登記の通知を登記所から受けていた伊東市から、平成28年度分の固定資産税・都市計画税を支払うようAのもとに納税通知書が届いた。Aは相続放棄により、もとから不動産を保有していなかったのに固定資産税等が課税されるのはおかしいとして、平成28年7月に不服を申立てた。

 審理した伊東市サイドは、地方税法343条第1項に、固定資産の所有者に固定資産税を課するという規定があり、ここでの所有者とは、地方税法第343条第2項前段において「登記簿又は土地補充課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に所有者として登記又は登録されている者」とされていること、同法343条第2項後段では、この所有者が死亡している場合には、現に所有している者を所有者とする規定があることを確認。その上で同市は「課税上の技術的考慮から法第343条第2項前段にあっては、台帳課税主義を採用しているものと解されて」いること、「台帳課税主義の例外規定である法第343条第2項後段の適用にあっては当該規定が登記簿上の所有者が死亡している場合等の規定であり、Aの場合には該当しない」ことを指摘。市の課税処分に何ら違法または不当な点は存在しないと判断している。

 一見、レアケースに見える事案だが、このデータベースに登載されていない事案で、同様の相続放棄で債権者代位により不動産の相続登記をされ、固定資産税が賦課決定された事案は数多くある。

 たとえば、東京都の裁決(平成26年11月21日)もそのひとつ。生前行き来のなかった叔母の死亡にともなう不動産の相続で、叔母に1億7千万円もの負債があったことから叔母の実子が相続放棄したため、甥(姪)である自分名義で相続登記されていたことを知り、急遽相続放棄をしたケース(平成24年8月27日東京都裁決)なども、同様に固定資産税・都市計画税の課税でトラブルになっており、いずれも課税について適法との判断が下されている。

 ちなみに、この手の事案の場合には、錯誤を原因として抹消登記を行い、固定資産税の賦課期日(1月1日)前に名義を変えることがポイントとされる。その場合の登記の当事者は、ほかに相続人がいる場合、その相続人が当事者となる。仮に固定資産税等が課税されたとしても、真実の所有者に名義が回復すれば、次年度からは相続放棄した相続人には固定資産税の課税はされない。また、いったん課税された固定資産税等は、真実の所有者に対し返還請求することが可能だ。これまでの判例(最高裁判所昭和47年1月25日判決)でも、真実の所有者でない人に課税されたとしても、こうした一連の手続きなどにより税負担を実質回避できることを指摘し、制度の便宜上、登記名義人に課税されることのデメリットがカバーできるとしている。

 今後、様々な裁決事例が数多く搭載されるようになれば、裁判には至らないものでも、地方税における税金紛争の事案の傾向が見えてくると予想される。納税者サイドにとっても、課税等に関する予測可能性がさらに高まるため、期待したいところだ。

行政不服審査裁決・答申検索データベース
http://fufukudb.search.soumu.go.jp/koukai/Main

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